ゴキブリ

第1章 笑撃の出会い
初めてゴキブリとの全面対決を行ったのは上京して初めての夏でした。 ちょうど、もうすぐに実家に帰郷する日で、帰る準備も万全と言ったときです。 それまではゴキブリなんぞとは出会った事もなく、平和な日々を送っていた自分 にとってはまさに晴天のへきれき。その黒く輝く姿にただただおびえるのであり ました。
しかし、考えてみると、もしこのまま実家に去ってしまったら1月以上もの間こ の部屋を彼が占拠してしまうことになる。

あんなやつのために高い家賃を払っているわけじゃない!

ここは何としても不法滞在を続ける彼に天の怒りをぶつける しかないと決心したのでした。
しかし、それまで全く彼らとの面識がなかったので一体どうおもてなしして良い ものか検討もつきませんでした。
そこで、初めての戦いで取り出した武器は「掃除機」でありました。掃除機で吸 い込んでしまえば、問題解決!と息ようようと挑んだのではありますが、すぐに この作戦は失敗だったと気付きました。彼は巨大な音を立てて迫り来るホース に近付こうとはしなかったのです。ものすごい勢いで逃げ出して行方をくらまし てしまいました。
このままにしておいたのでは、彼との共同生活が始まってしまう。ゴキブリとの 同棲など、とても希望にあふれたものとは思えません。しかし、掃除機の魔の手 にかかるほど彼も間抜けではなかったようです。仕方無く「まあ、吸い込んでも、 吸い込み口から又出られたら困るから、しょうがないさ」と自分を納得させて、 次の手段を考えました。
で、取り出したのが、今でも対ゴキブリ最強の武器として愛用している「クイッ クルワイパー」です。これは、まさに最強の名に恥無い威力を持ってきたいに答 えてくれました。天井にはり付いていた彼を見事一撃のもとに地上に落とし、更 に床の上でぐちゃぐちゃにちゃにちゃにつぶしたのであります。
と言うわけで、第一回戦は見事勝利し、その後ぐちゃぐちゃにちゃにちゃになった彼を、袋に詰め込んでゴミとともに さようならしたのでありました。


第2章 ここであったが50日目
さて、2度目の対決は同じ年の夏の終わり。ちょうど実家から又東京に戻ってき たときのことでした。
もうすぐ始まる大学生活初の試験に向けてもう勉強に打ち込んでいる最中、ふと 壁を何者かがうごめく気配を感じたのです。普通の人だったらあるいは、気付か なかったかも知れませんが、もうそのときは百戦錬磨の強者だったので(実際は1回戦っただけ)すぐに気付きました。
「またやつが現れた!」
そして、壮絶なる第2回戦が始まったのでありました。
今回の敵は前回の数倍も手強く、ゴキブリ退治のプロフェッショナルでも、てこ ずったに違いない、前回のが雑兵だとすると、中ボスくらいの強さを持ったゴキ ブリでした。
彼は、テレビの下、洗濯機の下と逃げ周り、ようやく見つけてもすぐ最強の武器 「クイックルワイパー」が使えぬところへと素早く去っていくのでした。
しかし、やはり正義は勝つ。
結局彼もまた、以前のやつと同じく、天井に逃げたところを一撃でしとめられ、 床をばたばたしているところを うりうり!ととどめを刺されたのでした。
ようやく2匹目も退治し、ほっとしたのもつかのま、ふと、ある重大なことに気 付き、ガクゼンとしました。一体このゴキブリはいつこの部屋に入り込んだのだろうか、と。
結局実家に帰っていた1ヶ月間
ゴキブリのために家賃を払っていたのかも知れない・・・



第3章 戦死達の休息
さて、2度もゴキブリの襲撃を受けた身としては、やはりこのまま傍観し、更な る襲撃を黙って待つわけには行かない。 ゴキブリは1匹見たら30匹いる と言うではないか。と言うことは、我家にはなんと

ゴキブリが60匹いる!

と言うことになるではないか!
ここは、彼らの絶滅のために作戦で も練ってみるか、ということで今までの有り合わせの道具で立ち向かうのを止め、 対ゴキブリ兵器として正式に販売されている武器を使ってみることにしました。
いくつかある中で、かなり迷った挙げ句に選んだ武器はあのCMでもおなじみのコンバットでした。
宣伝につられたといわれれば、まあそのとおりですが、「巣ごと全滅」という言 葉に躍らされたわけです。
はたして、その効果があったのかどうかはさだかではありません。が、しかし、 なんとその後2年にもわたってゴキブリの襲撃 を受けずにすんだのです。
まさに、幸せの絶頂の日々でした。
たかが黒い塊が部屋にないというだけで、これほどのまでの幸せが得られること があるでしょうか? まさに、
やはり、市販の武器は強いということでしょうか。
しかし、一つだけ気がかりなことがあります。もし、本当にCMで歌っているとお り巣ごとゴキブリが全滅しているとしたら・・・部屋のどこかに

大量に干からびた ゴキブリの塊がある

ということなのでしょうか。
うーむ、おそるべし

第4章 再会の非
さて、あの激しい戦いの日々から2年余りが過ぎ、もうゴキブリは出ないんじゃ ないかと思われていたころ、災難はまた突然やってきました。しかし、その舞台 は家ではありませんでした。彼とも2年ぶりの再会はバイト先でだったのです。
もうすでに2回も遭遇していたので、たとえ戦場が違ってももう大丈夫と思って いたのですが、意外な落とし穴がありました。 なんとそこにはクリックルワイパーがない! その事実を知った瞬間敗北を悟りました。
まさに地の利は敵にありでした。武器がなくては戦えるわけがないのです。
しかし店の中をいつまでも彼にうろうろしていただくわけには行かない。
一体どうすれば言いのか、まさに四面楚歌状態でした。
しかし「もう駄目だ」とあきらめかけていた瞬間、救世主は現れたのです。
店に来ていたお客さんが
「ん?ごきぶり?こんなのこうやって、ほら。」
といとも簡単に彼を捕まえ プチッ とつぶしてくれたのです。
そして
「ゴキブリのことはねえ、陰語でサリーちゃん とか言ったりするんだよ」
と、貴重な情報までくれたのでした。
上には上が入るもので、彼こそが真のゴキブリバスターだと心底感服いたしまし た。
しかし、感服はしたものの、やはり素手でゴキブリを捕まえるのは (たとえティッシュごしだとしても)どうかなと思う今日この頃。

第5章 太平の眠りを妨げるゴキブリ君。 ついに4匹目で 夜もうなされる
ついに4匹目まで登場。
それは、お店で出てからわずか1週間後のことでした。 まるでお店での恨みを張らすかのように我家に出没したのです。

それは、もう夜も更けてきてそろそろ寝ようかなと思ったときでした。 テレビを消して、さあ寝よう!としたとき、 ベッドのすぐ横の壁に何か黒いものがへばり付いているのが 視界の角に写ったのです。
それはちょうど枕もとの横の壁でした。
彼を退治するのは容易でしたが、その日は底知れぬ恐怖におびえながらの就寝と あいなったのです。
もしも、彼を発見できなかったら、寝ている間中彼は枕もとで かさこそとはいずり回っていたかと思うと・・・
その日は眠りも浅く、天井に写った影におびえ、ちょっとした物音にびっくりし で、結局次の日は寝不足のまま学校へ行ったのでした。
そして、すぐさまコンバット を買いに行ったのでした。

さすがに3年は効果が続かないらしい


第6章 フィフス・コクローチ
5匹目の彼との戦いは、 クイックルワイパーを使いはじめてから 初めての敗北を味わった戦いでした
もう夜も更けて11時近く。テレビを見ているとき、 突然壁に黒い影が出現したのでした。 見た瞬間にぴんと来ました。
「ふ、懲りもせずにまた出たか。クックック。地獄へ送ってやるわ!」
と息ようようと武器を手にしようとしたとき、顔が 青ざめるのを感じました。
なんと彼は、クイックルワイパーのすぐそばをはいずり回っていたのです。
なんと大胆不敵な!
もともとゴキブリが大嫌いで近寄るのも嫌だったので、 これはかなりのピンチでした。 このままでは退治はおろか、武器を手にすることすら出来ない!
しかし、このままゴキブリとの同棲生活を送ることもまた耐え切れない。
まさに四面楚歌状態でした。

しかし、なんと運のいい事か、 5匹目のゴキは かさかさかさとパソコンの裏へと 移動していったのでした。
これでようやく武器を手にすることが出来ました。
これでようやく戦う準備が整い、いざ、勝負! と思って、パソコンの裏に回ったやつを探すと、 いつのまにやら影も形もありません。
以前なら、どこに行ったかとパニックになったところですが、今やもうベテラン ゴキブリバスター。すぐに彼が洗濯機の下に逃げただろうと、 予測を立てることが出来ました。
そこで、洗濯機をゆさゆさと動かすと、予想どおり彼は洗濯機のホースの下から かさかさかさと逃げ出しました。
しかし、ピンチはここからだったのです。
なんと彼は冷蔵庫の裏を回り台所の流しの方へ向かうではありませんか。
あんなやつに神聖なる台所を汚される訳には 行きません。
何としてもやつの台所上陸作戦を阻止しなければなりませんでした。
とりあえず流しにあった皿や塩を避難させ、 左手にクイックルワイパー 右手には洗剤を構え、 まさに万全の体制で彼を待ち受けました。
すると、彼は殺気を感じたのか台所上陸作戦を中止して、 冷蔵庫と流しの間の狭い通路から外への脱出を計りはじめました。
しかし、これはこちらにとってはまさに好都合。 その狭い通路の出口で討ち取ってやろうと両手に持った武器を構えました。
そして、彼が通路からでた瞬間! 思いっきりクイックルワイパーを降り下ろしました。
「やった、討ち取った!」
と思ったのは一瞬の幻想。なんと彼は今まで無敵を誇っていたクイックルワイパー の手を潜り抜け、再び狭い通路へと逃げ込んだのです。
初めての敗北でした。
今まで常に一撃必中を誇っていたクイックルワイパーがついに敗れたのです。
しかも、彼は再び台所上陸作戦を開始しています。
もうまさにパニック状態。一体どうすれば言いのかと、おたおたしているうちに 彼はついに流し上陸まであと一歩と言うところまで来てしまいました。
「ついに神聖なる我家の流しが犯されてしまう!」
そう思った直後、天は我に味方しました。
なぜか突然彼は壁から下に まっさかさまに 落ちたのです。
一瞬何が起きたのか分かりませんでしたが、すぐその理由は分かりました。
倒し損なった一撃目が、殺すことこそ出来なかったものの、身体の半分をつぶす 重傷を追わせていたのです。
彼はその傷に耐え切れずついにあと一歩と言うところで力尽きたのでした。
床に落ちてしまえばもうこっちのもの。
あとはもう動きの鈍った彼をクイックルワイパーで ぐちゃぐちゃにちゃにちゃにつぶしてあげました。


これにてようやく一件落着はしたものの・・・
しかし、これで発見したゴキブリがついに4匹目。と言うことは

我家には120匹のゴキブリ達がどこかでひしめいている
と言うことになってしまったのです。
とほほ

第7章 道での遭遇
さて、このページを開いてからはや2ヶ月。
いろんな人からのメールから、どうやらゴキブリは外から入ってくるらしい、と 言う結論に達したのでそれ以来窓を開けるのが怖くなって仕方がなくなりました。
「窓を開けた瞬間に彼らが飛び込んできたらどうしよう」
洗濯物にこびりついていたら・・・」
そう思うと恐ろしくて洗濯物もおちおち干せません。

しかし、情報は多く寄せられるものの、実際に外ではヤツラを見たことはありま せん。
そのため、頭では分かっていても、まだまだ余裕をもって日々道を歩いてい たのでありました。道を歩いている時こそ、 彼らからの襲来におびえずに過ごせる 唯一の平和なとき だったのです。
しかし、そんな平和な生活もついに敗れる日が来たのです。

それは、妙に生温かく、湿った風の吹く夜でした。
その日は、帰りが遅くなり、暗くなった夜道を一人とぼとぼと歩いていました。 すると前方から 何か黒いもの かさかさ と転がるようにこちらに向かってくるのを発見しました。
その日は風も強く、きっと落葉が風に飛ばされているのだろう、と思い 目の前に迫り来る危険にも気付かずにそちらの方へと歩み寄ったのでありました。

と、その瞬間突然風がピタッとやみ ました。
一瞬訪れた沈黙の時。
しかし、時間が止まったかのような沈黙の中黒い物体 だけは今だに動いているではありませんか。
「風もないのに、動くこれは一体・・・ま、まさか・・・」

で、でたー!!!

こうして、最後に残された平和な一時を奪われ、更なる ゴキブリ僕滅作戦 の決行を心に誓ったのでありました。

第8章 ドアをノックするのは誰だ?
さて、最後の遭遇から半年あまり。 ときどき送られてくる「戦いの歴史の更新を楽しみにしています」というメール に「更新するにはやつらと会わなきゃいけないじゃないか」と 憤慨しながらも彼らとの遭遇はそれっきりであり、 徹底防戦の効果に日々ほくそえんで 暮らしておりました。
が、悲劇とは起きるものであります。
あれは、そう、ずっと思いを寄せていた愛しの彼女から電話で 「彼氏が出来ちゃった〜」などというタワケタ電話を受けた次の日でありました。 だいたい、その前日までそんな雰囲気をミジンも見せずにいきなりこう来るわけ ですからまったく、女というものはわからんですたい。などと自分の恥を 世界中に向けて発信しなくてもいいし、 そもそもそんなものどうでも言いという声が今にも耳もとに聞こえてきそうな 雰囲気なので、この辺にして本題に入ると致しましょう。

そんなわけで非常に重苦しい心で買物袋を片手にアパートに 帰ったときでありました。
いつもの通り何の気無しに扉を開けようとした瞬間ドアの前に何者かがいるのを 見つけてしまったのです。
そう、それは紛れもなく、奴でした。
やつは、まるで招待されたかのようなしごく当然のような顔で神聖なる 我家に入り込もうとしていたのです。
普段でありましたらそのまま回れ右をして逃げ出したいところであります。 が、逃げ出したところで帰るところもなくあてもなくさまよう羽目になることは 目に見えております。また、奴のために快適な我家を捨てるなど、 納得しがたいことではありませんか。
何としても我家に逃げ込みたい。しかし、もしここでドアを開けてしまったら 奴は 快く招待された と思い込み、神聖なる我家への突入を果たしてしまうかも知れない。
そう考えるとまさに板バサミ状態となり行動が起こせなくなってしまうのであり ました。
いったいどれほどの間奴との睨み合いが続いたことでありましょうか。
しかし、そこは歴戦の勇者。 やがて妙案を思い付いたのでありました。
やつをドアから遠のけて、 入られる前に入ってドアを閉めてしまえばいい!
何と天才的なひらめき。
しかし、自分の素敵さの余韻に浸っている場合ではありません。
自体は一刻を争います。
いかにやつをドアの前から遠ざけるか。
ここで取った戦略はいたって単純なものでありました。
脅かせば逃げるに違いない
そう、いつだって部屋に出たとき殺そうと追いかければどこへともなく姿を 消してしまう奴ら。
こっちが殺意をもって退治すればすぐに逃げ出すに違いない。
うりゃ!
そこで、思い切り奴めがけて足を踏み下ろしたのでありました。
しかし、そこは小心ものの悲しさ、本当に踏みつぶす勇気はなく やつから16cmほど離れたところに足を下ろすに留まりました。
すると、やつはこちらの目論みどおりピクッと動きました。
しかし、それだけだったのです。こちらとしてはそのままどこかへと 去っていってくれることを期待していただけに失望の大きさは 計り知れませんでした。
しかたなく、続けて二回三回と足踏みをしました。端から見ればなんと 間抜けな光景だったことでしょう。
しかし、こちらが足踏みをするたびに奴は小馬鹿にしたようにぴくぴくと 動くだけで待てど暮らせど我家への侵入を諦めようとはしません。
それどころか、だんだん顔の向きがこちらの方を向いてくるではありませんか。
最後にはやつは何と挑戦的にも完全にこちらの方へと向き直ったのであります。
完全に睨み合う形になり恐怖は更につのります。「まさか、奴はこの足踏みが 奴とのダンス を申し込んでいるものと勘違いしたのではないか!?」 などと恐ろしい考えまで頭をよぎります。
しかし、そこはやはり歴戦の勇者。 すばらしいアイデアを思い付いてしまいました。
「やつがこっちを向いてる隙に家に入ってしまえばいい!」
まさに天才的、完全に奴の裏をかくすばらしい作戦です。 こちらも、いかに胴長短足とはいえ奴に比べれば素早く家に入れるに違いない。
こうなったら勝負です。 奴の顔をじっと睨みながらゆっくりとノブに手を伸ばしました。
そして、奴の一瞬の隙を付いて素早くドアを開け中に入りドアを閉めました。
恐らく家の中に素早くはいることの 世界記録 を樹立したのではないでしょうか? 幸いにもやつが一緒に入ってきた形跡はなく、コトナキを得たのでありました。

さて、その後奴がどうなったのかは知りません。
開けられるはずもない扉の前でじっと待っていたかも知れないし、早々に諦めて 隣の家に行ったかも知れません。
この行動はゴキブリ僕滅委員会としては間違っているかも知れませんが、 もう一度扉を開けて奴を殺す気にはなれませんでした。
なぜなら、ゴキブリは嫌いだが死んだゴキブリも嫌いだからであります。
良いゴキブリは死んだゴキブリだけだ などという名文句もありますが、 死んだゴキブリだって嫌なものは嫌 なのです。
いずれにせよ、我家への侵入を阻止できてそれだけで満足な一日だったのでした。

第9章 僕ドザえもん
さて、一年の月日を経ての更新であります。
できることならもう一生更新したくなかったのに・・・。
そうです。出てしまったのであります。
それも尋常じゃない、衝撃的な再会でありました。

最近妙に暑く、送られるメールも多くなり、そろそろ季節だな、とは思っておりました。
しかしながら、昨年度部屋の前での出会いはあったものの、ほぼ丸2年家の中には
出現させないという世界新記録を更新しつづける日々 に、多少の油断があったことは認めるにやぶさかではありません。
しかしながら、「こんなページ作っている身で、全然遭遇しなくていいのかなあ?」などと 悩んだりしつつも
「ま、出ないからいいか」
とよこしまな考えを抱いていたことも事実であります。
ゴキブリの被害に日々あっているかたがたに対し、 まことに失礼な考えを抱いていたことをココに陳謝する次第であります。

さて、事の発端は家で夕食前に皿洗いをしていた時でありました。
ここで、知っている方もいらっしゃると思いますが、 我が家の流しは非常に流れにくく、 スムーズに流れることは 三日に1回くらい しかなく、 順調に流れた時には思わず拍手喝采、よくやったと 労をねぎらいまくってあげたくなる くらいであります。
そんな流しな訳で、当然、その運命の日も流れは良くなく、流しの中には プールのごとく 水がたまってしまったのであります。
それでも順調に洗い終え、まな板も洗ってヒョイと退かした瞬間でありました。 何かが水の中に浮いているのを発見したのです。
まるで、ゴキブリを真後ろ低空から見たような物体でありました。
もちろんゴキブリを真後ろ低空から見たことなどいまだかつてないわけでありますが、
長年の経験と勘が、まるでゴキブリを真後ろ低空から見たのに 良く似ているぞ、と訴えかけてきます。
これまでの人生ほとんど勘だけで生きてきた 身としては彼らの訴えを退けることなどできようはずもありません。
しかし、一方弁護側は、ここ数年やつが家の中に入ったことが 無いことを主張しております。
よもや、そんなことはありえない。ただの勘違いに違いない。
なんとしても、ここは無罪判決を勝ち取りたい。 まさに、祈るような気持ちでありました。
しかし、その祈りは見事に 裏切られたわけであります。 あのお正月にあげたお賽銭(5円)はなんだったのでしょうか。
心を沈め、もう一度じっくりと見ました。
そして次の瞬間、見るんじゃなかったと心の底から激しい後悔の念 が沸きあがってくるのを抑えることは出来ませんでした。
ぎゃ〜〜〜〜
まごう事なく、奴でした。 このときの衝撃はまさに 筆舌に尽くせぬ 物があります。
通常の人ならばその瞬間腰を抜かしたことは明白であり、 腰を抜かさなかったのはひとえに 日頃の鍛錬の成果 であるということができるのではないかと思われます。

しかし、最大級の不幸の中にもほんのちょっぴりの幸運も混じっておりました。
奴の頭は 完全に水の中に沈んでいた のであります。 やつらは、残念ながらえらを持たずえら呼吸をすることは出来ません。
また、もし奴らが酸素ボンベをしょっていたら、その衝撃には耐えられない物があると思われますが、 彼は運良く酸素ボンベの用意はなかったようで、 単身生身で果敢にも水の中に飛び込んだようでありました。
はたして彼が最後の瞬間三途の川の向こうで手を振る両親の姿を見たかどうかは 定かではありませんが、 少なくとも彼自身は とっくに三途の川は渡り終えた後 でありました。

ここで、すぐにでも検死官かFBIを呼んで司法解剖を行い、その死因を確かめるべきでした。
しかし、そのときはもう気も動転し、考えることはどうやってこいつを捨てればいいのだろうかということだけでありました。
暫く考えた後、割り箸(おてもと)で、つまみ捨てることに成功致しました。

ようやく彼を 3重の袋 に入れてようやく一息付いたわけでありますが、
今回は実に様々な疑問の残る戦い(?)となったわけであります。
一体彼はいつ入ってきて、いつ死んだのでしょう。
  • そもそも、水がたまりだして溺死したのか?
  • それとも、 人生を悲観した挙げ句 たまった水にダイブして死んだのか?
  • そもそも死んでいたのが流しにいたのか?
もし、人生を悲観した挙げ句の暴挙であれば 今後
このようなゴキブリが増えることを大いに期待したい
ものであります。
しかし、実際のところは全く分からず、 様々な謎を残したまま戦いは幕を閉じました。
この疑問がとける日は 一生無いでしょう。とほほ。
ちなみに、記念にデジカメで写真を撮っておきました。それが です。
写りが悪いとはいえ、やっぱり心臓の悪い方はご覧にならないことをおすすめします
最後にこの場をお借りし、東京都ごみ清掃局の方々に慎んでお詫び申し上げます。


すいません。
燃えないゴミの日に ゴキブリ入りの 燃えるゴミを出したのは、私です。


第10章 夏の終わりのゴキ
今年二度目の悲劇がやってきたました。ようやく涼しくなり始め、今年はこれで終わったなあ などと感慨深く思っていた矢先の出来事に、 巨大な動揺を隠し切れないことに憤りを感じている次第であります。 やつらは意外な時に出ると分かってはいても、それでも、あまりに 衝撃的な再会 でありました。
それは、大好物の餃子を作ろうとしていたときでありました。 それも、出来合いの餃子ではありません。 ちゃんと ひき肉 やら にら やらを使って作る本格中華の餃子であります。 一人暮らしの分際でこんなものを作る酔狂な人は他にいないのではないかと 自分で自分を べた褒めしたい くらい頑張ってく作っていたそのときであります。
さて、もう具は混ぜたし後は皮に包んで茹でれば完成と、全てことは順調に進んでいるはずでした。 もう、後20分もすればおいしい餃子で至福の瞬間が味わえると思っていた、 そのときです。 何かが水道の蛇口の裏を走り抜けるのを感じました。
そう、奴です。

今年の夏、この流しで死んだ彼の敵でも討とうというのでしょうか、 人が丹精こめて作り上げた餃子をまさに完成させようというその瞬間にまるで、 我々人類をあざ笑うかのように 姿をあらわしたのであります。
しかし、彼が姿を見せたのは一瞬でありました。 彼はそのまま台の上に置いてあった日本酒のビンの裏へと逃げ込んだのであります。 何と言う、軟弱ものでしょう。あるいは、彼はまだ見つかっていない物と思ったのかもしれません。 しかし、こちらの目はごまかせません。 しかも、彼の長い触角は日本酒のビンには隠れきれず、 向こうの端からゆらゆらとうごめいているのが一目瞭然でありました。
頭隠して尻隠さず の生きた見本みたいな奴です。
しかし、この狭い台の上ではクイックルワイパーは使えない。 彼はそのことが分かったのでありましょう。 余裕の表情で相も変わらずゆらゆらと触覚を揺らしています。 しかし、こちらも伊達にホームページで奴らの撲滅を謳っていません。 彼らが洗剤に弱いと言うことはもうネタが上がっているの です。 その洗剤のある台所に現れたのが運のつき。
一撃でしとめてくれる!ぶはははは
などと、まるで 漫画に出てくる悪役のような気分 であります。
意気揚揚と餃子を部屋へ移動してから、右手に洗剤、左手に念の ためのクイックルワイパーを持ち、奴の死刑執行に向かいます。 もう、このとき洗剤の海にのた打ち回る彼の姿が目に浮かぶよ うでした。 そして、必殺の一撃を彼に向かって放ちます。
が・・・!
「外れた!?」
それは、油断が招いた失態でありました。 思えば洗剤で奴らと戦うのは初めての経験。それなのに、百戦錬 磨の勇者のような気持ちでいた自分のおろかさを呪うのみであります。
そう、洗剤の液は確かに一瞬前まで彼のいた地点で水溜りを作り ました。 もし、彼が動かなければ今ごろ彼はその水溜りの中で 打ち回ってい 事でしょう。 しかし、彼は一瞬の差で致命的な洗剤の攻撃をかわし、全力で台 所から飛び出したのです。
その速さはまさに黒い弾丸の名に等しいものでありました。今まで対峙してきた彼の仲間の誰よりも 早く、恐らく彼はこの部屋で短い生涯に幕を閉じることがなければ、数日のうちに シドニーへと旅立つ予定だった であろうことは疑うに固くありません。
あ!っと思う間もなく彼は床に降りると、玄関へと突撃してきました。 してきた。 そう、彼はまさにこちらに向かって突っ込んできたのです。 慌ててもう一度洗剤を発射しますが、彼のあまりの早さに洗剤はあらぬところへと飛んでいくだけです。
そして、一瞬の隙に彼は横をすり抜けて靴置き場へと飛び込んだのであります。
さて、ご存知の方もいらっしゃると思いますが、我が家の玄関には一人暮らしの分際で靴が 5足(セット?)もあるのです。 その靴に埋もれるような玄関に黒い彼が飛び込んだ結果は、まさに悲劇でありました。ブーツやサンダ ルと言った色とりどりの靴たちの影が彼の姿を電球の光の届かぬ所へといざなってしまったのでありま す。
これは、戦場としては圧倒的にふりです。 敵は身を潜めるのに容易な場所を確保してしまったわけであります。ここは、うかつに手を出すと、大 いなる悲劇を迎えかねません。 もし、彼がブーツの中に逃げ込んでそのまま 永住を決意してしまえば、 いつの日か忘れたころに間違えてブーツを履いてしまい靴下の廃棄処分はおろか、 足ごと切断しなければならぬほどの 精神的ショック を受けてしまいかねません。
戦いは慎重を要しました。まず、彼が明らかにいないであろうと思われる靴から 順番に玄関から風呂場へと移動させます。 この間も奴が調子に乗って玄関から部屋の方へと行かないように常に目を ギンギラギン に光らせていました。
そして、4つ目の靴を移動させようとした時、彼はこのあふれる緊張感にたまりかねたのか、全力でダ ッシュし玄関のドアへと向かいました。
しかし、姿さえみてしまえばこちらの物。奴目掛けて必殺のクイッ クルワイパーを振り下ろします。が、彼は間一髪クイックルワイ パーの手を逃れ、玄関のドアと床の間に逃げ込みました。しかし、彼の幸運もそこまでだったので あります。彼が逃げ込んだのはドアと床の間のわずかな隙間。そして、その隙間の上には覆い被さるよ うにピザ屋の広告が落ちていたのであります。
「ごめんなさい、ピザハットさん!!」
そんな祈りの声をあげるつもりは毛頭なく、 無言のうちに広告の紙の上から彼目掛けてクイックルワイパーを 振り下ろしました。二度、三度と打ち付けた後、広告を退かします。
その下から現れたのは、ドアの隙間で動かなくなった彼の姿でありました。
そっとドアを開けると、彼は
ポロン
とドアの外へと転がり出ます。外に転がり出ても、全く動こうとしない彼に、 ようやくこの難敵に勝利したことを感じ取り、一息ついたのでありました。
そして彼は、クイックルワイパーによってからめとられ、 そのままゴミ袋の中へクイックルワイパーの紙ごと捨てられあえ なく ゴミ箱へと直行 することになったのであります。
その後玄関とドアが熱湯消毒されたのは言うまでもありません。

今回もやはり勝利の決め手はクイックルワイパーでありました 。
しかし、今後の狭い場所でのバトルを考慮すると洗剤よりも命中 率が高く、 驚くほど鈍くさい作者でも使用可能な武器を入手したいと思います。

ちなみに、今回のタイトルは、元ネタが分かったら相当のマニアです。




第11章 春なのにあなたは来るの?
先日テレビを見ていると、うちの近くにあったごみ屋敷が映し出されていました。 当時の家主であった婆さん(通称ごみババア)のインタビューがあり、曰く
「あの頃は間違っていた。もうごみは集めない」
何と嬉しいコメントでありましょうか。これほどまでに 日本中を感動の渦に巻き込んだこのコメントは、 デカルトの
「我思うゆえに我あり」
に匹敵すると行っても過言ではないでしょう。
これで、もうゴキブリの被害に合うことはない。 そう確信してしまっても、無理はないことだと思います。
その喜びのあまり油断してしまっていたことは、認めるのにやぶさかではありません。 しかし、誰だって原因となっていたものが排除されると分かれば 多少なりとも油断してしまうのではないでしょうか。 しかし、やつらは私に安息の日々を許してはくれないのでした。

その日は、ちょうど友人が泊まりに来ていた日でした。 先日テレビに感動していた私は、つい、彼にも
「もう、やつらは出ないから大丈夫」
などと言ってしまったのでした。これが彼らの逆鱗に触れたのかも知れません。 友人が少し外出したついでに、私も夕食の買い物に出かけました。 その日は美味しそうなキムチをゲットし、キムチまにあとしては 非常に幸せな気分だったわけです。
しかし、神はそんなささやかな幸せすら奪い取ろうとしていたのでありました。

るんるん気分で帰宅したそのときでした、 ドアを開いた瞬間、台所の廊下を何かが全速力でこちらに向かってきたのは。 この部屋には誰もいなかったはずです。もし、友人が帰ってきていたとしても 家の中にははいれないはずだし、第一彼にしては小さすぎる
ということは・・・
やつだ!
そう、一年の沈黙を破り、ついにやつが姿を現したのでした。
玄関に向かって突撃してきたやつは、そのまま下駄箱の下へと逃げ込みました。 まるで、敵はわが家のどこが安全かを知っているかのようです。そう、下駄箱から 玄関にかけては、まさに秘境とも言うべき場所であったのです。 大量の荷物、多くの死角。彼らには天国のような場所であったと いえるかも知れません。
しかし、負けてはいられません。このままでは、友人が帰ってきたときに 何と言えばいいのでしょうか。 昨日の豪語が招いた恐るべき事態に私はしばらく呆然としていました。
しかし、そこは新・ゴキブリバスター。すみやかに意識を取り戻し、 戦いの準備を始めました。
今までの経験からやつらは一度隠れたら その場所からはなかなか出てこないことが分かっていたので、 すばやく家にはいると最強の武器 クイックルワイパーをとってきました。 準備は万端です。
本当は洗剤も 用意したいところですが、残念ながら今回購入した洗剤は 少しでも良く落ちるのが売り文句の洗剤で、 量が非常に少なかったのです。天下の貧乏人 としては、とてももったいなくて使えません

こうして、万全とは言いがたい体制のまま戦いは始まりました。
今回の戦いは非常に地味です。 一つ一つ荷物をのけていって、やつが現れるのをひたすら待ち続けました。
こんなときいつも、ゴキジェットでも買っておけば良かったと思い悩むのですが、 そんなこと言ってもアフターカーニバルです。
そして、やつとの静かなる戦いが始まったのです。


コマンド?
ドカス→ゴミ箱
しかし、何も見つからなかった。

コマンド?
ドカス→傘
しかし、何も見つからなかった。

コマンド?
ドカス→バケツ
しかし、何も見つからなかった。

コマンド?
ドカス→一升瓶
しかし、何も見つからなかった。

そして、ついに彼が隠れうる場所は椅子の足の影のみとなりました。 素人ならば見逃してしまいそうなごくわずかな隙間に逃げ込むとは、やつも 百戦錬磨の強者であったのだろうと思われます。 今までの黒ゴキであれば容易に見つかったであろう場所を、その体の小ささを 利用して見事隠れているのですから。
しかし、隠れ場所を見つけてしまえば、もう、袋のネズミです。
うりゃ!
普段の敵である黒ゴキであれば、この一撃で死に、 後は、美味しいキムチを食して友人の帰りを待つばかりのはずでした。
しかし、私は油断していました。今回の敵は大きさだけが取り柄 の黒ゴキとは違い、早さが武器の茶ゴキです。
やつはスーパーマリオもびっくりの奪取でクイックルワイパーの下をくぐり抜けて 台所から玄関へと走り去ったのでありました。
しかし、逃しはしたもののこれで神聖なる台所をやつの魔の手から 開放したのは事実です。
おもわずこれに満足してしまいそうな自分を叱りつけながら、玄関の段差の影に 逃げ込んだやつ目掛けて再びクイックルワイパーをふり下ろしました。
うりゃ!
今度こそやったはずです。先ほどのようにクイックルワイパーの下から逃げてい くやつの影は見当たりません。
こうして、やつを仕留めたことを確信した私は、即座にクイックルワイパーを ぐりぐりさせ始めました。
ここで徹底的にぐりぐりしておかないと、 いざクイックルワイパーをのけたときに、半分つぶれたやつが かさこそと逃げ出していくという、 腰を抜かさない方がどうかしている風景を目の 当たりにしてしまう可能性が高いからであります。
そして、ようやく十分にぐりぐりを行った私が クイックルワイパーをどけたとき、そこに現われた風景は 信じがたいものであり、その瞬間私はこの世に神がいないことを 確信したのであります。
いない!
確に、クイックルワイパーの下敷となり、ぐりぐりに よって見る影もなくなっているはずのやつが、そこにはいなかったのです。
なぜいないんだ!混乱はしたものの、原因を調査すべく委員会を招集し、 その結果以下のような可能性を存在しうる事を確認しました。
  1. はじめからクイックルワイパーの下にいなかった。
  2. クイックルワイパーにつぶされながらも逃げ出した。
  3. 床に溶けてなくなった。
  4. そもそもやつは幻だった。
  5. Mr.マリックが近くにいて、とりあえず別の場所に移動させてみた。
このうち、3から5であれば何ら問題がないということで全会一致致しましたが、 問題は1、2の場合であります。とくに1の場合は問題解決が困難である可能性が 非常に高く、これではないと願いたいところです。
しかしながら、もし2であるとするならば即座によろよろの彼の姿を 確認できるはずですが、どこを見回しても彼の姿を発見できません。ということは、 最も恐るべき1であるという結論を出さざるを得ません。
私としてはこのまま見過ごせば悪夢のような彼と 寝食を供にする生活が待つだけです。
なんとしても彼の行方を明らかにするために全国に捜査網を引くことを 決定したのであります。
そして、その後30分にわたる執拗な捜索が続けられました。

しかしながら、その努力も空しく彼の行方は知れないままでありました。
30分もの捜索を回避し逃げ切るほどの強者です。これは長期戦になるな、と 直感的に悟った私は、すばやくコンビニへと走りました。
しかし、コンビニに行っている間に彼にわが家を我が物顔に歩かれるなど 一秒でも許しがたいことであります。
おそらくそのときの自転車をこぐスピードは 橋本聖子もびっくりであったことは間違いありません。
今後機会があれば競輪にもでてみようかと思うくらいの惚れ惚れするような 速さでありました。
そして、そのスピードで購入してきたもの、それこそが ゴキブリホイホイであります。
何を今更という感はありますが、なんとしても彼を捕まえるための最終手段に 訴えたのであります。
これで、もう、やつの命はごくわずか。数日のうちにやつの死骸と出会うことに なるであろう事に疑問の余地はありません。
こうして、春の戦いは幕を閉じたのでありました。

そして、それから一年。
いまだに怖くて中を見ることができません。





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なお、自分のゴキブリとの戦いの歴史を知って欲しい
という酔狂な方はこちら までどんぞ